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アマンダの願い
人間に恋をした人魚が欲しい物といえば? そう、人間の脚。
――人間の娘の姿になって、もう一度あの人に会いたい――
末娘であるアマンダは、海の王宮のサロンで美しい姉君たちに相談する。
「人間に恋をしたなら、あきらめるしかないわ。だって人間と人魚では、住む世界が違うんだもの。あっちは陸でこっちは海。脚のない私たちは、陸では生きられないのよ」
おやつのコンブをかじりながら一番上の姉君が一刀両断する。だが、アマンダは簡単には引き下がらない。
「だから私は人間の脚が欲しいの。人間の娘の姿になって、どうしてももう一度あの人に会いたいの!」
するとさっきから三番めの姉君の髪をトリートメントするために、せっせとワカメを編み込んであげている二番めの姉君がアマンダを諭す。
「私たちは人魚なんだから、人間の脚なんて生えてこないのよ?」
「だからと言って、その人間を人魚に変えることもできないでしょうしねえ?」
ワカメを編み込んでもらっていた三番めの姉君は、おっとりとした口調で四番めの姉君に同意を求める。
「ええ、できないわね。もしできたとしても、人間は人間のままでいたいでしょうし」
同意を求められた常識家の四番めの姉君は同意する。
「そんなの、あの人に訊いてみなければわからないじゃないの!」
アマンダは負けずに反論するが、弁の立つ五番めの姉君が説得する。
「じゃあどうやってその人間に尋ねるの? 人魚の姿で人間の前に姿を現したら、捕まえられて見世物にされて、あなたの会いたいその人に、会いに行くどころの話じゃなくなるのよ?」
「そうなったらもう、海の民の国には二度と戻って来られなくなるわ! ああ、恐ろしい!」
怖がりな六番めの姉君が、両腕で自分の身を抱くようにして身震いする。すると一番上の姉君が、最終結論のように宣言した。
「だからあきらめるしかないのよ、アマンダ。所詮、人間と人魚では、住む世界が違うのよ」
「ああ! お母さまが生きていらっしゃれば! お母さまなら何か良いアドバイスをくださったでしょうに……」
アマンダは嘆く。ユーモアのセンスがありながらも思慮深かった母がもうこの世にいないことを、彼女は改めて嘆くのだった。
「お母さまはとうにお亡くなりになったのだから、今さらそんなことを言っても始まらないでしょう?」
結局アマンダは、四番めの姉君に正論で諭されてしまった。
こうしてアマンダは、姉君たちに相談したって何ひとつ良いアドバイスなんてもらえなかったのだ。
救いを求めるように父王にも相談してみたが、父は苦しげな顔で「あきらめなさい」の一点張り。
人間との恋を実らせるためのアドバイスなど、何一つくれやしない。
――どうしてみんな、私の恋を応援してくれないの !? 私の幸せを願ってくれないなんて、そんなの酷い!――
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