恋の相談

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恋の相談

3c2d0c9b-8c3b-45b1-902c-2dfe1e3e4943  素敵なあの人への恋をどうしてもあきらめたくないアマンダは、仲良しの物知りの海亀のおじいさんを訪ねて行く。彼は遠浅の海の沖の方に住んでいて、そこにはたくさんの海藻が林のように生えている。生真面目な海星(ヒトデ)たちが海底に整列して、黙々と行進して行くのが見える。  太陽の光が燦々と降り注ぐ温かい海底に腹這いになって両肘を付き、両手のひらで頬を支えながらアマンダはため息まじりにおじいさんに愚痴をこぼす。 「お姉さまたちやお父さまは、私の気持ちなんか全然わかってくれないの。だけど私は本気なのよ」  おじいさんは目を閉じて小さく(うなづ)きながらアマンダの話を聴いてくれた。そして彼女が思いの丈をすっかり語り終えると、おもむろに口を開いた。 「アマンダ、おまえさんは姫たちの中で一番、若い頃の王妃に似ておる。こうやっておまえさんと話していると、若い頃のエスメラルダと話しているようじゃ。彼女がわしをよく訪ねてきたのは、王妃になる前じゃったがな。恋の相談にも乗ってやったもんさ」  海亀のおじいさんは昔を懐かしむように目を細め、微笑んだ。 「お母さまも恋の相談に? その恋はどうなったの?」 「うまく行ったから、おまえさんが生まれたんじゃよ」 「おじいさんのおかげで私が生まれたのね! ありがとう、おじいさん。私、生まれきて良かった! だって恋する喜びを知ったんだもの」 「たしかに、恋は素晴らしい」 「そうよね! おじいさんなら私の恋を応援してくれるでしょ?」 「もちろん。わしはおまえさんの幸せを願っておるからな」 「だけど、お父さまやお姉さまたちはみんな『あきらめなさい』としか言ってくれないの……」 「彼らもわしと同じじゃよ。彼らだっておまえさんの幸せを願っている。『おまえさんの恋を応援するかしないか』という、結果として出した答えが違うだけなんじゃよ」 「……そうね。彼らも私の幸せを願ってくれているのよね。彼らの出した答えが私が望んでいたような答えではなかったから、私、悲しくて怒ってたの。『どうしてわかってくれないの ⁉』って」 「うむ。おまえさんは初めての恋に夢中になり過ぎて、自分の気持ちしか考えられなくなっていたんじゃよ」 「ええ。平衡を欠いた思慮の浅い態度だったと思うわ。恋は素敵なものだけど、恋だけで頭がいっぱいだなんて愚かなことだとわかったわ」 「よしよし。よくわかったようじゃな。では良いことを教えてやろう」  そして彼は、海の魔女グロリアの存在を教えてくれたのだ。ただの人魚ではない、魔女の人魚がいると言うのである。 「グロリアは魔法の薬を作れるから、人間の姿になる薬だってきっと作れるじゃろう」 「素晴らしいわ! どこに行けばグロリアに会えるの? 教えて、おじいさん!」 「まずは落ち着いて、わしの話を聴きなさい」 「あ、はい……」 「グロリアは悪い魔女ではないが、お人好しの魔女でもない。ただでは魔法の薬などくれないじゃろう。必ずおまえさんの持っている物を見返りとして要求してくるはずじゃ」 「そうね。『タダでもらおう』なんて虫の良いことを期待するべきではないわね。私の持ってる物ならなんでも差し出すわ。あの人に再会するためなら!」 「待て待て。情熱だけで突っ走ってはいかん。不公平な取引に応じてしまっては、馬鹿を見るだけじゃ。決してグロリアの言いなりにはならず、費用対効果をよく考えて、最善の策を考えるんじゃよ」 「費用対効果、最善の策……」 「おまえさんはあの思慮深く才気煥発だった王妃の娘じゃから、『考える力』を持っている。王妃から受け継いだ『考える力』を使えば、最善の策を見つけられるはずじゃよ」  さすがは亀の甲より年の功。長生きした分だけ知恵のある海亀のおじいさんは、情報提供だけに留まらずアマンダに良いアドバイスをしてくれた。 「ありがとう、おじいさん。冷静によく考えながら、グロリアと交渉してみるわね」
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