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海の魔女との取引
そしてアマンダは海亀のおじいさんから教えてもらった海の魔女グロリアの許へ。
彼女は太陽の光も届かない深い深い海の底の横穴に、隠れるように住んでいた。
年老いた醜いしゃがれ声のグロリアは暗い横穴の中にアマンダを招き入れ、ランプがわりにチョウチンアンコウを乗せたテーブルに着くように促す。
テーブルに着いたアマンダは、人間の姿になる薬を作れるかとグロリアに尋ねた。
「アタシはどんな魔法の薬だって作れる一流の魔女だよ? もちろん、人間の姿になる薬だって作れるともさ」
「素晴らしい! さすがは魔女だわ。人間の姿になる薬を作ってもらうなら、どんなお礼が必要かしら? 真珠とか珊瑚で良くって?」
「それらは魔法の薬の基剤として、必ず使うんだよ。結局おまえが飲んでしまうんだから、アタシの手元には残らないね」
「じゃあ、少し多めにお渡しすれば良いかしら? そうすれば今後も使えて便利でしょう?」
「そんなお礼はいらないね」
「私、沈没船から拾った金の飾りを持ってるの。ピカピカしてとっても綺麗よ。首に着けたり腕に着けたりできるの」
「そんな物、着けても見せる相手がいないんでね」
「だったら綺麗な絵のお皿や銀のスプーンはどうかしら? 何に使うのかわからないけど、スプーンよりもずっと大きな銀でできた三股の道具もあるわ。それぞれの先が尖っててちょっと危ないんだけど、とっても綺麗よ。これも沈没船から……」
「おまえの声と引き換えだよ」
「え……?」
「魔法の薬のお礼として、おまえのその綺麗な声をもらおうじゃないか」
「私の、声?」
「今じゃこんなしゃがれ声だけどね、アタシだって若い頃は美しかったし、美しい歌声を誇ったもんだよ。たくさんの水夫たちを幻惑して、たくさんの船を難破させたもんさ。こないだおまえがその歌声で、船を座礁させたようにね。ヒヒッ」
チョウチンアンコウの灯りに皺だらけの顔を照らし出されたグロリアは妖しく笑った。
「え、なんですって !? あの船が座礁したのって私のせいだったの? 大変なことをしちゃったわ……。って、それはさておき、じゃあ若さを取り戻せば、美貌と美声は戻ってくるはずよね? あなた一流の魔女なんだから、若返りの薬を作って、それを飲めばいいんじゃないの?」
「そりゃあアタシは一流の魔女だけどね……。若返りの薬を作るには、ある物が必要なんだよ。それを手に入れるのは至難の業で、アタシには決して手に入れられない物なんだよ。だから、アタシは若さを取り戻せないのさ」
グロリアは困ったように顔をしかめながら言う。
「じゃあ私が、そのある物を手に入れてくるわ。だから先に、人間の姿になる薬をちょうだい!」
「おまえが手に入れて、それをアタシによこすってのかい?」
グロリアはこの取引に関心を示した。
「ええ。私、きっとそれを手に入れてくるわ!」
「そうだねえ、おまえなら手に入れられるかもしれない……」
「そう思う?」
嬉しそうにアマンダは尋ねる。
「多分、おまえなら」
「だったら先に、人間の姿になる薬をちょうだい!」
こうしてアマンダは先に人間の姿になる薬をもらうことになった。
ただし『歩くと足がナイフでえぐられるように痛む』という嬉しくないオプション付きだったのだが。
期限までにある物を手に入れてグロリアに渡せば、この嬉しくないオプションは外してもらえる。
そうすれば自由に歩けるし、踊れるし、走れるのだ!
だが、『もし期限までに間に合わなければ、体が溶けて海の泡になってしまう』という超絶厳しいペナルティが課せられていた。
どんなに交渉してみても、グロリアはこの条件だけは譲ってくれなかった。
期限は三日後。
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