4/79
前へ
/79ページ
次へ
 本当は、週刊漫画雑誌の最新号が読みたいだけで戻ってきたのだが、確かに仕切り直した方がいいのかもしれない。少し店にいて客を待ってみようか。  フロアでぼんやり漫画を読んでいるとドアが開いた。慌ててカウンター内に戻ろうとしたとき、その客の様子が少しおかしいことに気付いた。 「……うわ」 「へへっ……」  ゆらり、と近づいてきた男は、柊の肩をぐっと掴んであっという間に馬乗りになってきた。喉元をすごい力で抑え込まれ、呼吸ができなくなる」 「おまえ!」  店長がカウンターの向こうから、こちらにこようとするより早く、入り口から誰かが近づいてきた。 「たすけ……て」  苦しい喉から搾り出すように夢中で助けを請うと、その人は男を押さえつけると後ろ手に回しうつぶせに組み敷いた。 「うっ……かはっ……ごほっ」  せき込む柊の横で、取り押さえられた男はわけのわからないことを盛んに喚いている。所々歯の欠けた汚らしい口元からは涎がだらだらとこぼれて、その様を間近に見て今更ながらに鳥肌が立つ。店長も慌ててやってきた。 「申し訳ありません、桂木様。お怪我はありませんか?」 「驚いたけど大丈夫だよ。店長、この人渡しちゃっていいかな?」 「はい。ボーイを助けていただいてありがとうございます」 「いやあ、受身くらいしかしたことがないから、必死になってしまったよ」     
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

323人が本棚に入れています
本棚に追加