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 めずらしく栗原が軽口を叩いた。弁護士というのはもっと忙しそうにしているものだと思っていたが、栗原はそういった様子を全然感じさせない。隠すのがうまいのか、本当に暇なのかわからないけれどたくさん助けてもらっている。 「栗原先生、いろいろありがとうございました」 「……仕事ですからね」 「それでも、天陽さんだけじゃなくて、俺みたいな者のことまで気遣ってくださって、本当に感謝しています」  いよいよ栗原が居心地悪そうになってきた。 「そんな、最後の挨拶みたいな言い方はよしてください。むしろあなたとはこれから……」  それはない。だからあなたが言うとおり最後の挨拶をしているんだ。と心の中で呟いた。その後の栗原の言葉は柊の耳に入ってこなかった。  もう天陽の姿しか見えず、天陽の呼吸しか聞こえない。かろうじて温かいが、もう握り返してはくれない手を握って名前を呼んだ。 「天陽さん……大好き」  泊まり込みをはじめて三日目の朝、天陽は息を引き取った。  主治医が来てお決まりの言葉を述べた後、病室を後にした。そのうち、この人の本当の家族が来るだろう。自分の役目はここまでだ。その後はここにいられない。  屋上に行き空を見た。  もうすぐ日が昇る、いつも通りの朝だ。  この空にあなたはいるのだろうか。幽霊でもいいから、姿を見せてくれればいいのに。もうあなたに会えないのなら、捨てられるか、殺された方がましだ。     
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