スティル・ドリーミン

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 一人暮らしの小ぢんまりとしたワンルームの中で、その文面を何度も見つめ返す。入居したときに比べれば平べったくなったベッドに身体を沈める。メールの履歴なんて、実家にいる家族を除けば迷惑メールくらい。さみしい履歴に突如として現れた結婚の二文字が、嫌に重たく胸に沈む。 『おめでとう』  そう一言返すだけでも相当の時間を要した。素直に喜べない自分がいたのだ。奥さんの顔も子供の歳も知らないのに、どうして変な嫉妬をしているのだろう。  結局、フリックする指がうまく動かなくて、そのまま画面を閉じた。 「はあ……」  最低限の電化製品とノートパソコンくらいしかないワンルームで、僕は瞑目する。本当はノートパソコンに眠っているたくさんの「宿題」をやらなくてはならないのだけど、どうもそんな気にはなれなかった。画面の中では上司から押し付けられた未完成の書類が僕を待っている。  社会人になって、三年目。  就職先が決まり一人暮らしを始めて、どうにかこうにか仕事にしがみついている。朝起きて仕事に追われて、帰宅したときにはくたびれた状態。せっかく手に入れた自分一人の城も眠るだけの拠点となっている。これで三年。あと何年、これを続けていくのか。  金銭的な不自由はない。裕福ではないけれど、借金するほど逼迫してもいない。会社が傾く気配も今のところなし。何も問題がない、ように思える。 「…………」  ノートパソコンがある机の棚に並んだ、分厚い設定資料集。     
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