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話は飛び、私の子供の話になった。
「楽しみですね」
奈美さんは、ハンバーグをナイフで切りながら言う。
「うん、色々不安でもあるけどね。私は里帰り出産はしないから」
「え? そうなの? 大丈夫かよ」
池村君は心配そうに眉を潜める。
「ん……」
でも今更、出産する病院も変えられない。今は産科が少ない。早くに予約をしないと、埋まってしまうのだ。
それに母も、義姉も仕事をしているから、頼めない。とりあえずタクシー会社には、予約しなくちゃと思っている。
(初めての出産、大丈夫かな……)
ついつい不安になり、サンドイッチを食べる手が止まってしまった。
「あの、もしも産気づいたら私の所に来て下さい。基本、家にいますんで」
奈美さんは言う。池村君も「そうだ」と頷いた。
「でも……」
「いいんですよ、お互い様ですから」
「そうそう。困った時はな、お互い様だ。俺もお前と主任に、謹慎くらって実家帰った時、旨いうなぎに、助けられた」
池村君は言う。そうだった。中国人の女の人に恋をして、それが警部にバレ少し頭を冷やせと言われたんだっけ。でもその話題に今触れるのは、奈美さんの前では、ご法度だ。
彼女は、池村君の過去を知らないのだから。
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