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「へぇ。確かに。ありゃ美人っぽいな」  夫の口調は期待しているようだった。でも私も同じ事を思う。  あんな素敵な所に住めてまた、羨ましくなる。 「あそこからなら、きっと赤羽の街を一望できるんでしょうね。いいな」  ついつい私は、羨ましそうな口調になってしまった。 「へぇ、悠子がそんな事言うなんて珍しいな。引っ越すか?」  夫は私に気を使いながら言う。  無理だ。  若い警察官が、警察官舎以外の物件に住むのは、マンションを買うというのなら許されるだろうが、賃貸物件に住むとなると上司のお許しが出ないと住めない。  うちは、新しく来た地域課長が、少し厄介だ。  夫の所も関根警部が厄介だ。彼らが許してくれるだろうか。  結婚相手や、住まいにまで口を出される世界だから。 「無理に決まってるじゃない」  第一私達は、この辺のマンションを買う頭金は貯まっていない。それに警察は転勤族。警察官舎がやはり、都合が良かった。安いし。
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