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「ねぇ、そこのビルで殺人事件があったの知ってる?」 「はぁ」  彼女らの話題はもっぱら、殺人事件だ。そりゃ近くでそんな事件があったんだもの。話題にもなるよなぁ……。  彼女らは私が警察官だと知っているので、何か知っていることはない? と言いたげに、興味津々の視線を向けてくる。  私はたじろいだ。 「私、管轄外なんでよく知らないんですよ」  当たり障りのない事を言っておく。  彼女らの心情は野次馬根性だ。 「なぁんだ、そうなの」  ボスの奥さんが口を尖らせた。ちょっと残念そう。そんな彼女らを見て、私は気持ちが冷えた。 (人の気も知らないで)  じわりと胸に不快な気持ちが広がる。  美幸さんの事を思うと、居てもたっても居られなくなった。
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