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 美幸さんはいつの間にか、工藤さんに心を移していた。そして二人は結婚した。 「貴方が美幸さんを殺害した訳ではないですよね? 工藤社長の事も」  夫が問うと、彼は思い切りかぶりを振った。 「違います! 私は美幸と別れてからは一切かかわっていません」  きっぱりと否定した。気の弱そうに見える男性だが、芯は強そうだ。突き刺すような言葉を向けられても、彼は怯まなかった。  間違った事は嫌いな性格だろう。  確かに犯人は彼ではない。 「じゃぁ、誰が犯人なんです? 心あたりありますか?」  夫は尋ねた。  伊藤さんは無言のまま、俯く。 「貴方に不利になるような事はしません。是非協力して下さいませんかね。これは殺人事件なんですよ」  夫は引き下がらなかった。白バイの癖に何言ってるんだと、伊藤さんは言うだろうかと思ったが、違った。 「何の根拠も保証もありませんが」  居住まいを正しながら、彼はまた重い口を細々と開く。
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