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彼の名は、今井昭利。年は四十。職業は中華料理を主とする、会社経営。なんと、俺がいつも利用している新しい中華料理の弁当屋の経営も、携わっているという事だ。
「いつも、利用してますよ。お宅のお弁当、おいしいですよね」
「ありがとうございます」
キッと睨みつけた表情は一瞬、柔らかくなった。根は悪者ではないのだろう。ただ、どこか融通が利かなそうな感じではあるが。
「反則金ならいくらでも払う」
改まったようにすがるような表情を、この男は押し付けて来る。俺はギョッとした。
「何でしょう?」
「昨日の夕方、入籍したばかりの妻が行方不明で」
「は?」
俺は走らせていたペンをついつい、下へ落としてしまった。一大事ではないか。
「ちょっとちょっと、それ、警察に言いました?」
「今、貴方に言っているじゃないですか」
それはそうだが、交通機動隊の俺に言っても……。
「分かりました。ちょっと専門の管轄を呼びますから」
俺は青切符を製作した後、無線で呼びかけた。警視庁の通信指令室から最寄りの所轄署へ伝達し、ここへ来るというパターンである。
この男の住所は、赤羽北になっている。うちの分駐所、そして警察官舎の近くだ。
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