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 そこは懐かしき、海が見える場所だった。まだ冬なのに、まるで春のような温かい色をしている。  太平洋の海はいつも、波が荒い。しぶきが岩にかかり、飛び跳ねていた。  昼の二時。  相変わらず日の入りは早いけれど、少し最近は遅くなったかもしれない。薄い陽が海面を照らし、綺麗に輝く。  懐かしい潮の香り。私は目を細めた。 「唯香さんにとっては、懐かしいんじゃなくて?」  窓辺から海を見下ろす私に、背後からそんな声が聞こえた。  Iラインの黒いニットロングワンピースに、そでにフリルがついている。今の流行のデザインだけど、なんだか魔女みたいだ。  いや、彼女は魔女みたいな女かもしれない。 「奥様……」  長いロングヘアに、軽いパーマをかけているその女性を私は見た。真っ赤な口紅に、真っ赤なネイル。やっぱり魔女だ。  ここは、今野さんが離婚した奥さんの、館山にある別荘だった。 「奥様は貴女の方かしらね」
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