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「何? 白バイの癖にそんなの持ってるの?」
山田さんが、さっき白バイの俺を見て、少し安堵したかと思ったのはそういう理由か。拳銃を持っていないと思ったのか。
「持ってるとも。普段持ち歩いていないのは、刑事課だけだ。俺はな、ガクはないが、警察学校時代、射的や運動神経だけは優れていた。武道も誰にも負けない。男の力に女が勝てるわけがない。訓練した警察官になら、尚更。アホな事はやめろ」
「こっちに来たら殺すわ。この子も、あんたも」
「無駄だ。あんたに人は殺せねぇ」
俺は睨みつけた。
増原さんの目も丸くなる。さっきからナイフを突きつけられても怯えていなかったが、流石に拳銃の登場には驚いたようだ。
「お二人とも、辞めて下さい」
弱々しい声で、増原さんは言う。増原さんは隣にいる、元夫の前妻をキッと睨みつけた。
「私を殺したかったら殺して。ただ、安西君と、貴女の息子さんだけは……。お願いです」
増原さんは、傍らで前妻に頭を下げる。
前妻の山田さんは驚きの表情で、増原さんを見る。俺も驚いた。
「安西君は、もうすぐ赤ちゃんが産まれるんです。奥さんが妊娠中で、幸せそうだった。パパのいない子にしないで。貴女の息子さんだって同じ。危ない目に遭わせて、貴女それでも母親なの? こんな事して……」
増原さんの言葉は説得力があり、圧があった。
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