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 何かあったのだろう。さては奥さんと喧嘩したか。  俺は、林田警部の奥さんの顔を思い出した。うちの悠子よりも更に上回る美人。悠子も綺麗だと周りから言われるが、それ以上に林田警部の奥さんの美貌は凄かった。  細すぎて顔も女優というよりは、異世界から来たお姫様のよう。  けれども嘘が見抜ける点や、人の表情で心が読み取れる彼女。そんな林田警部の奥さんは、実は俺としてはおっかない。  美人ならば、尚更おっかないと感じていた。でも性格はあっさりした人で、優しい。人に好かれているからいい人なのだろうけれど、人の表情が見抜ける時点で、俺は別の意味で怖いのだ。  俺が悠子に片思いしていた時も、一瞬であの人は見抜いた。  ダイニングのソファで悠子が寝息を立てて寝ている事を、俺は一瞬にして忘れてしまっていた。俺はギョッとした。 「おい、悠子、起きろ」  俺は悠子の体をゆすったが、起きる気配はない。 「安西、構わん。寝かせておいてやれ。ただでさえ、妊婦は眠いんだ。仕事で疲れてるんだろう」  優しい林田警部の言葉に、俺は救われた。 「すみません、なんか。お茶でも淹れますね」 「いやいや、気を使わないでくれ」  林田警部は言いながら、座卓の前に腰を下ろした。林田警部も悠子の指導を俺と一緒にした上司。  悠子の寝顔など、見慣れたものだから今更何も思わないのだろう。  俺はコーヒーを淹れたかったが見当たらないので、紅茶を出した。 「すみません、紅茶しかなくて」 「いやいや、気遣いなく」
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