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「いや、いけない事はないがね」
湯浅警部は苦笑いしつつ、ウンザリした顔をする。きっとさっきからこの繰り返しなのだろう。
私はもう刑事じゃない。湯浅警部の取調べに対し横から少し質問したり、観察するしかなかった。
黙って鈴木さんの表情を見つめる。私は心がもやついていた。少しじれったくもあった。
さっきから、苦い表情を浮かべてはサッと表情を変える。何なのだろう。
ただ言える事は、何か隠しているのは間違いないのだが。
「ねぇ、あのニット、東京では買えないんですか?」
私は横から質問を変えた。
「……。はい、買えないんです。もうほぼ完売しちゃって。黒だけが人気で」
そう。黒だけがね。私は水色を購入したけどいけなかったかしら?
そんな反発心というか、大人げない乙女心も持っていた。
「どうして黒なの? ねぇ? 若いなら水色とかピンクでもよくない?」
私は、湯浅警部の質問の腰を折る言い方をした。湯浅警部が苛立っているのは百も承知だった。
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