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「例えばだけど」
私は肘をつき、思考を巡らす。
ごくり。と鈴木さんは生唾を飲んだような真剣な顔をしつつ、私の顔を恐る恐る見た。
「彼氏も洋服も彼女に取られた、とか。あの黒いニット、結局、後で彼女が手に入れたんじゃない?」
当てずっぽうの予想を発してみる。彼女の反応を試みる為。
彼女はますます、視線を下に落とした。
素人でも首肯とすぐに理解出来すぎる。
「で、彼氏とはどうなったの?」
私はサラリと質問を変えた。
「彼は……三山さんに取られました」
彼女は重い口を開きはじめた。しっかりと。
はじめ鈴木さんと付き合っていたが、後から三山さんがちょっかいを出し、男はそっちに傾いたというわけだ。
「その彼の方からも事情を聞かないとね」
私が問うと、湯浅警部が言うには、別の取調室で他の刑事が聴取しているという事だった。
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