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鈴木さんの目が大きくなる。我に返ったか。目が覚めたか。
私は、向井に再び向き合った。
「三山さんは、傲慢な性格なら、鈴木さんの欲しいものは全部欲しかったのかもね。
高崎の実家に帰った時、三山さんは、鈴木さんの後を、ストーカーみたいについていったんだと思う。三山さんはあのニットを多分、心から欲しかったわけではない。
ただ、鈴木さんの欲しいものが、全て欲しかっただけ。私はそう思います。むろん、貴方も三山さんに心から愛されていなかった」
すると向井は、その通りと言わんばかりに頷いた。
「三山さんを轢いた人は、きっと女よね? 貴方のもう一人の女」
私は軽蔑をこめた口調で言うと、向井はデスクに顔を伏せた。そして泣き出してしまった。
鈴木さんの顔がみるみるうちに、変わっていく。きっと彼女の恋心は冷めただろう。冷めるのが遅すぎた。
「その女の名を言ってくれないかね?」
湯浅警部は、ため息をつきながら発した。
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