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「だってどうしても喉が渇いちゃって、すっぱいものが飲みたくなっちゃったんだもの」
「あぁ、なるほど」
それでオレンジジュースなのか、と、納得した。
俺は幕の内弁当と、コーヒーを購入し堀井と一緒に官舎へ向かって歩いて行く。
(周りから夫婦に見られてるんだろうな)
そんな自嘲的な笑みが浮かんだ。
そんな時だった。
下の階に住む、小寺さんという二十三区以外から転勤になり、引っ越してきたばかりのお嬢さんと、官舎の入り口でバッタリ会った。
確か、娘さんは小学校五年生。一人で歩いて大丈夫だろうか。
可愛らしいファミリアのお稽古バッグに、ずっしり重いものを入れて帰宅したようだ。
「こんばんは」
セミロングのその少女は、礼儀正しく俺達に頭を下げた。
「こんばんは。こんな遅くまで塾?」
堀井が子供向けの口調で問う。
「はい……」
ハキハキと少女は答えた。
「そう、こごみちゃんは、ピアノも上手だものね、習い事大変だね」
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