5/11

902人が本棚に入れています
本棚に追加
/693ページ
 車を降りたその女。 (うわ、細……)  服の上からあばら骨が出ているほど細かった。しかし顔立ちは綺麗すぎる。整形だろうか……。  白生地に黄色と青の花柄模様のワンピースにカーディガン。ウエストは今流行だと言われている、コルセットのようなベルトでウエストマークを作っている。  細くないと似合わないベルトで、流行と言っている割にはあまり流行ってはいないという話だそうだ。  どこかゴツゴツした女だった。後部座席に乗ってもらう。 「運転手さん、ここ速度いくつか知ってますか?」  今原が尋ねた。  女性が「知らない」とダミ声で発する。顔の割にはダミ声だ。 「ここね、六十なの。運転手さん、八十四出てたから。スピード出しすぎ。高速道路じゃないんだから。事故も多いんで、気をつけて下さい。二点の減点。青切符になります。一万五千円の反則金になりますからね」  俺はそう告げてから、バインダーに免許証を挟み、必要事項を記入しようと免許に視線を転じた。 「えっ」  俺はついついそんな声が出た。今原も、ん? と顔を覗き込む。  田原圭介、二十八歳。東京都北区赤羽北在住。写真は端正なイケメン顔。住まいのマンションは、イエローレジデンス。佐々木修平と同じマンションだ。 「えっ」  今原も頓狂な声。俺達は同時に振り返る。 「何よ、文句ある?」  その『女』は言った。 (そうか、性転換したのか……)  俺はそこで、確信した。若い今原は目を何度も瞬かせながら免許証を眺める。
/693ページ

最初のコメントを投稿しよう!

902人が本棚に入れています
本棚に追加