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「何見てんのよ!」
ドスの聞いた声で、今原に言う、その男。いや、女か。
「いえ」
今原は居住まいを正した。
「あなたね、この辺に住んでるなら、時速六十って知ってる筈でしょう」
俺は交通違反告知書に、記入しつつ少し説教口調になる。
「分かった、分かったから。早くしてよね。私急いでるんだから。ちゃんと反則金なら払うわよ」
素直なのか、素直じゃないのか分からない。
性格に癖がありそうな、男、いや、女だ。
「はいはい、今書いてますからね、ちょっとお待ち下さいね」
俺は柔和な口調を心掛けた。反省はしていなさそうだ。
「何であんた達、何も突っ込んでこないのよ」と、その『女』
「何がですか?」
俺は問い返す。
「私が女になった事、根掘り葉掘り聞かないの?」
聞かれたいのか、何なのか……。
「聞いてどうするんですか」と俺は言い返す。女になりたかった理由はきっと、あるのだろうし、俺はその点について追及するつもりはない。
今原も黙っている。
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