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「あら、何?」
「貴方と同じマンションに住む、佐々木さんの事ですよ」
俺の言葉に、田原さんは「あぁ」と、頷く。どうやら知っているようだ。
「あの人のご主人、亡くなったじゃないですか。事故で」
「そうそう。お気の毒にね。お子さんもまだ全員、小学生なのに」
気の毒そうに彼は眉を顰めた。彼なのか彼女なのか、どう言っていいか、分からないが。
「あの人、お酒飲まないって本当ですか?」
そこのところが知りたい。本当は少し飲むかもしれないし。
「あぁ、飲まないって言ってたけどね。あぁ、でもね、ここに来た時は、グラスワインを一杯必ず飲んでたわよ」
「えっ」
少し俺は仰天した。ちょっと話が違うんじゃないか。全く飲めないという訳ではなかったのか。
でもグラスワイン一杯くらいじゃ、飲んだ事にはならないのか。
「いつも、おひとりで来られてたんですか?」
俺は声を潜めて聞いた。すると田原さんは、少し困惑した顔をし、視線を泳がせた。
(女がいたか……)
奈美の言っていた事が脳裏をよぎる。
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