3/17

902人が本棚に入れています
本棚に追加
/693ページ
「あら、何?」 「貴方と同じマンションに住む、佐々木さんの事ですよ」  俺の言葉に、田原さんは「あぁ」と、頷く。どうやら知っているようだ。 「あの人のご主人、亡くなったじゃないですか。事故で」 「そうそう。お気の毒にね。お子さんもまだ全員、小学生なのに」  気の毒そうに彼は眉を顰めた。彼なのか彼女なのか、どう言っていいか、分からないが。 「あの人、お酒飲まないって本当ですか?」  そこのところが知りたい。本当は少し飲むかもしれないし。 「あぁ、飲まないって言ってたけどね。あぁ、でもね、ここに来た時は、グラスワインを一杯必ず飲んでたわよ」 「えっ」  少し俺は仰天した。ちょっと話が違うんじゃないか。全く飲めないという訳ではなかったのか。  でもグラスワイン一杯くらいじゃ、飲んだ事にはならないのか。 「いつも、おひとりで来られてたんですか?」  俺は声を潜めて聞いた。すると田原さんは、少し困惑した顔をし、視線を泳がせた。 (女がいたか……)  奈美の言っていた事が脳裏をよぎる。
/693ページ

最初のコメントを投稿しよう!

902人が本棚に入れています
本棚に追加