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男の俺が口を挟んでも仕方がないだろう。俺はゆっくり黙って、クレープをかじっていた。
女でも近くにいないと、こんなの男が一人で食うのは恥ずかしい。二人がいてくれてよかった。
「そっか。あのさっきの女の子は……」
奈美がおずおずと、尋ねる。
「佐々木君と同じクラスの、伊藤さゆりさん。佐々木君は六年生で……」
「そうだったんだ」
奈美はクレープを食べる手を静止し、少女の話に真剣に耳を傾ける。こごみちゃんは、ゆっくりクレープを食べていた。
「佐々木君は、誰にでも優しいから……」
こごみちゃんの声が小さくなる。早くも失恋の痛みを感じているのだろうか。
「伊藤さゆりさんのお母さんは看護師さんで、佐々木君のお父さんと同じ病院に勤めてるんです」
「って事は堀井総合病院に?」
俺はついつい、口を挟んでしまった。しかし特に何の迷いもなく、こごみちゃんは「そう」と首肯する。
「安西さんちの婦人警官の叔父さんの病院……」
こごみちゃんは、そこまで知っていた。
多感な年頃の少女。色んな事に敏感になる時期だ。
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