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「こごみちゃん、どうしたの?」
奈美はクッキーをこたつに置きながら、尋ねた。
「私が心配する事ではないんですけど……。佐々木君大丈夫かなと思って」
こごみちゃんは、下を向き今にも泣きそうな顔になる。恋する人を心配する女性の目をしていた。
少女というより、大人の女を思わせるようだった。
この年の少女というのは、たまに大人びて見えるから不思議だ。
母子家庭になってしまったら、どこか引っ越してしまうのではないかと不安もあるだろう。
交際していなくても、好きな人が自分の前から去るのは、寂しいものだから。
俺も奈美も無言になった。彼女にかける言葉が見つからなかった。
「そうね、佐々木君はきっと色々辛いかもね。何かあった時は、こごみちゃんが手を差し伸べてあげて」
優しく奈美は言うが、それは少し酷ではないだろうか。しかし、奈美も他に言葉が見つからなかったのだろう。
ますます、こごみちゃんは背中を丸めた。
きっと今のこごみちゃんには、それが出来ない。
先ほどの伊藤さゆりさんが、その役目をするものだと思っている。
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