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 翌日、晴天。  今日は、練馬方面まで足を延ばすルートだった。いつも通るのは、高島平。  高島平から練馬方面へ向かっている途中、ブレーキランプが切れているレクサスを発見した。 「練馬〇〇ー〇〇、黒いレクサス停まって下さい」  俺が拡声で指示をすると、ゆっくりとレクサスは速度を緩めた。  見覚えのある顔が、運転席の窓から顔をだす。 「あ」  思わず声が出てしまった。伊藤さゆりさんのお母さんだ。 「何? 交通違反なんてしてなかったけど」  よく見ると、気が強そうな女だった。堀井総合病院勤務の看護師。多分主任ナースとかそんな所かもしれない。 「すみませんね。ブレーキランプが切れてますよ」  俺が言うと、伊藤さんのお母さんは「えっ」と眉を顰めた。 「うそぉ」  彼女はレクサスから降りる。 「ちょっといいですかね。僕が運転席で、ブレーキペダル踏んでみますから、見てて頂いて」 「お願いするわ」  切羽詰まったような顔をする、その女性。真っ赤なワンピースに白いカーディガン。情熱的な色だった。
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