8月29日

2/11
前へ
/13ページ
次へ
夏休みが終わろうとしていた8月、凪は病室の前に立っていた。 消毒液の匂いが鼻をついて頭の中で溶ける。 ドアの取っ手を掴みかけて、辞める。 そんなことをもう3度繰り返していた。 蝉が忙しく鳴く午後2時。 また、いつも通りの日常が始まるのだと思っていた。 凪は意を決して病室のドアを引いた。 目に飛び込んで来たのは、真っ白なベッドに横たわる愛しい人。 何本もの管に繋がれた彼は、長い睫毛を伏せたままだった。 あまりの衝撃に立ちくらみがした。 昨日見ていた光景が、頭の中を一瞬で駆け抜ける。 「…棗」 無意識に口をついて出た名前は、紛れもなく今目の前に横たわる彼のものだった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加