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夏休みが終わろうとしていた8月、凪は病室の前に立っていた。
消毒液の匂いが鼻をついて頭の中で溶ける。
ドアの取っ手を掴みかけて、辞める。
そんなことをもう3度繰り返していた。
蝉が忙しく鳴く午後2時。
また、いつも通りの日常が始まるのだと思っていた。
凪は意を決して病室のドアを引いた。
目に飛び込んで来たのは、真っ白なベッドに横たわる愛しい人。
何本もの管に繋がれた彼は、長い睫毛を伏せたままだった。
あまりの衝撃に立ちくらみがした。
昨日見ていた光景が、頭の中を一瞬で駆け抜ける。
「…棗」
無意識に口をついて出た名前は、紛れもなく今目の前に横たわる彼のものだった。
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