8月29日

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見上げている瞳が、太陽に反射してオレンジ色に光った。泣いていたのかと思うほど潤んでいる眼差しに一瞬戸惑う。 「大丈夫だよ。すぐ冷やすし」 ははは、と笑ってみせたが、実際のところかなり痛かった。ただ、女の子にぶたれてしまったところを見られてしまっているので、これ以上不恰好な姿は見せられないと、凪は思った。 「それより森山はなにしてたん?」 その問いかけに、棗はびくりと肩を震わせる。 「あの、屋上が、好きで」 「へー、俺もよくくるんだー」 俯いてしまった棗の顔を除きこもうと腰を屈めると、足元に置いてある鞄に目がいった。 「あ、そのストラップ、サイケのじゃない?」 「え」 棗は驚いた顔を見せた。 「サイケ知ってるの?」 「俺、このバンド好きなんよ!森山も好きなん?」 サイケとは、4人組のバンドで、かなりマイナーだった。まだメジャーデビューはしていなかいが、ライブハウスなどで活動している知る人ぞ知るバンドだ。凪はこのバンドが好きだったが、周りに知っている友達がいないため、よく1人でライブに行っていた。 「俺も、俺も好きなんだ。…誰も知ってる人いなくて」 棗はよほど嬉しかったのか、もじもじと喋っていた。 「へー!嬉しい!話しできるやついた!じゃあ、今度の対バンいくん?」 凪も興奮気味に話す。 「うん」 「じゃあ、一緒にいこう。いっつも1人で行ってたし!」 棗の顔がぱっと明るくなった。 「いいの?」 「いいよ!」 一瞬またもじもじと体を揺らしていたが、棗は何かを決心したように、ギュっと唇を噛み締めてから 「行く」 と答えた。 仲間ができて嬉しい凪は、棗の華奢な肩に手を置いて「決まりなー!」と言った。 その時の棗の顔はどこか、安心しているようだった。
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