8月29日

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それが棗との出会い。 凪は気づくと学校の屋上にいた。 そよそよと冷たい風が髪を靡かせる。 フェンス越しに見る景色に、心がざわついた。 ギジリとフェンスをよじ登り、人1人やっと立てる幅の足場に立つ。 下を見下ろして、息ができなくなった。 棗は、こんな高い所から飛び降りたのか。 こんなにも足がすくんでいるのに、俺でさえ恐怖を感じているのに。どんな気持ちだったのだろう。 「棗…」 フェンスを掴んでいる手にじんわりと汗をかく。 ハタハタと、シャツが揺れる。 棗はあの日、俺に言った。 「じゃあね、凪くん」 いつもは「またね」だったのに。 今思い返せば、納得はいく。 棗を止められなかった。 どうしておけば良かったのだろう。 棗はどうしたら救われたのだろう。 気づけば涙を流していた。 夕日が一段と輝いている午後5時。 鳴るはずのない、学校のチャイムが鳴り響いた。 それと同時に、ごうっと猛烈な強風が吹き荒れ、凪の背中を押した。 「あ」 フェンスに捕まる間も無く、ぐらりと体がよろける。 ーー落ちる。 景色が反転して、太陽が沈むのが見えた。 向こうで跡を残す飛行機が、足元を飛んでいる。 「神様」 凪は無意識に、頭の中で呟いた。
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