もう一人いた!

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 中大兄皇子は半分ヒステリックになりながら叫んだ。何で自分と全く関係ない輩に取り憑かれねばならぬのか。思わず頭を抱えて踞る。 『俺だってなあ。光秀のハゲに取り憑きたいが、何故か戻れぬし、お前以外には取り憑けれぬし。まあ、諦めろ。』 「諦めろで済んだらこの世は天下泰平だ。」 『おお。よう言うた。』  カラカラと笑う男を恨めしげに見上げる。誰でも良い。何とかしてくれぬものか。中大兄皇子はふとそう思い、即座にそれが叶わぬ願いと悟る。  中大兄皇子と鎌足はあらゆる手を尽くしていた。坊主、神官、韓渡りの術師。さては鎌足自身までが祓おうとしたが、全く効き目はなし。山背大兄皇子の祟りだろうか。でも、私は入鹿らの一団に参加しなかったし等と彼がうんうん考えていると、すっと影が落ちて来た。信長は死んでいる為か影がない。誰だろうと顔を上げると悪名高き蘇我入鹿であった。 「葛城皇子。腹痛か?」 「い、いいえ。どちらかというと頭痛で。」  あははと笑って誤魔化す中大兄皇子をじろりと睨め付け、入鹿はふんと鼻を鳴らした。 「いつもは使わぬ頭を使いすぎたのであろう 慣れぬ事はせぬものよ。」 「は?」 「鎌足と何を打ち合わせておるのか知らぬが 所詮無駄な事よ。」  思いっきり誤解だった。どうやら信長を祓うべく、鎌足と奮走していたのを、奪取皇位と取られたようだ。誤解だと言えばこの手のタイプは益々疑いを深めるので、曖昧に笑って中大兄皇子は入鹿を見送った。こういう時、彼ののほほんさは警戒心を薄める。 『やな感じ。何者だあやつは。』 「今すっごく偉い人。大王である母上より偉っそうだよ。」 「で更に付け加えるならば、今一番嫌われている方です。」  と、さりげに追加をしてきたのが何時の間に現れたか、唯一、中大兄皇子以外に信長を見ることが出来る男、鎌足である。彼はちらりと中大兄皇子の肩上辺りに目を遣り、未だに信長が取り憑いているのを確認して溜息を零した。そして何時か、神事を司る中臣の名に賭けて、必ず彼を祓ってやると心に誓う。 『おい。中大兄。お前皇位継承者だろ。お前の代になったら、彼奴首にしろ。首に。』 「私の他にもう一人、入鹿の後ろ盾が付いた人がいるの。多分その人がなるよ。」  どうでも良いと投げやりに答える中大兄皇子に、信長が食って掛かる。 『何?お前はあんな奴の存在を許すのか?』
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