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「信長殿。例えあの方を政から遠ざけたとしても、あの方がいなくならない限り、横行を止めることは出来ません。」
何も知らぬくせに口を出すなと言わんばかりの鎌足に、信長はにやりと笑って見せた。悪戯っ子が新手の悪戯を思いついた時に見せる笑顔だ。思わず後退る鎌足に信長は楽しそうに言った。
『それだ。彼奴を消してしまえばいい。』
数年前に帰国した南淵講安の講義の帰り。鎌足と並んで、中大兄皇子はがっくりと肩を落としながら帰っていた。何も今日の講義が難しかった為ではない。自分に取り憑いている男が言い出した計画に悩んでいるのだ。
「鎌足、何でお前は乗り気なんだ。」
「皇子こそ、あの蘇我本宗家の専横をお許しになる気で?」
間髪入れずに切り返されて中大兄皇子はうっと詰まった。
「いや、それは……」
「ならば良いではありませんか。」
「でも、倉山田を味方に付けようと彼の娘と結婚までしなきゃいけないなんて。」
うんうん頭を抱える中大兄皇子を、しゃきっとしろと信長が見下ろす。そんな二人……否、三人の所へ男の子が一人駆けてきた。
「にいさま!」
「有間じゃないか。」
軽皇子の息子、有間皇子が中大兄皇子に抱きつく。
「お前、一人で?」
「ううん。母上や采女といっしょ。」
満面の笑みの有間に、中大兄皇子は色々と問題が押し寄せ疲れていた心が安らぐのを感じた。
「では叔母上達の所まで連れてこう。何処だい?」
じゃれ合いながら歩いていく二人の後ろで信長が鎌足に尋ねた。
『何だあの餓鬼?』
鎌足は小声で答えてやる。
「有間皇子ですよ。中大兄皇子の叔父上でらっしゃる軽皇子のご子息です。」
『要は従兄弟か?しかし懐かれてるな。』
「そうですね。軽皇子の所でも、お二人が仲良さげにお話しなさってるのをお見かけした事が……」
『鎌足、お前そんなとこに何で出入りしてるんだ。』
信長の問いに鎌足は、しれっとこう言った。
「神官如きで終わりたくないからですよ。」
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