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 三億の孤独が集まって、たったひとつの愛を目指してひた走るこの闘いは蠱毒(こどく)といって相違ない。  蠱毒とは百種の虫を同じ容器に入れて戦わせ、最後まで勝ち残った一種の虫が優勝! みたいな陰湿極まりないバトル・ロワイアルのことだ。戦いに勝ち残った一種は毒となって人の命を奪うが、ぼくらの場合は女神の愛を得ることが出来る。  ルールは極めて単純で、我らが女神の元まで走って会いに行くだけ。愛のフルマラソンの参加者は、その数三億。ぼくらは只今絶賛激走中だ。  いつスタートが切られたかは定かではない。今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをして云々なんて試合開始の合図もなかった。  それにしても、前も後ろもどこもかしこも真っ暗で何も見えないな。  ぶつかり合う肩と肩。東京ドームx個分の闇の中を、ぼくたちは同じ目的を持って所狭しと全力疾走する。  実際の広さはわからないが三億。これだけの数が暗黒をひた走れば、走りにくいことこの上ない。  だから、殺して数を減らすしかない。 「死ねええええええええええ!!」 「うわああああああああああ!!」 「嫌だ死にたくない嫌だ嫌だ嫌だあっ!!」 「うおおおおおおおおおおお!!」  あちこちで聞こえてくる殺意の籠った雄叫びと阿鼻叫喚の声。考えることは皆同じ。この中で生き残るのは、たったの一種だけ。運が良ければ、女神に会える。運が悪ければ、全員が死ぬ。  三億の生死を賭けた孤独なバトル・ロワイアルなのだから―― 「おるるぁああああああああ!!」  野蛮な叫びと共に何者かが突進してきた。優勝して愛を得るまでぼくらは皆、何者でもない誰か(アンノウン)だが。  段々暗闇に目が慣れてきて、相手の容姿が見えてくる。と同時に振り下ろされた斧を、間一髪のところで身体を捻って避ける。  隙のできた相手の首元に持っていたナイフを刺し込んだ。まずは一殺(ワンキル)。 「ウラウラウラウラウラ!! どいつもこいつも死ね死ね死ねえええええええええ!!」
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