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殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくった結果、巨大な壁の前に立っているのは、たった二つの命だけとなった。
まさに一騎討ち。目の前のアイツを倒して壁を越えれば、ぼくは愛する女神に会える。
対峙する彼も、同じ気持ちを胸に抱いて立っているんだろう。眼差しから揺るぎない闘志を感じる。
お互いにもうボロボロだ。度重なる殺し合いの末、使える武器もなくなったので素手喧嘩だ。
最後の死合いを前にして、彼は真剣な面持ちで話し掛けてきた。
「なあ、もうやめにしないか?」
いきなりだった。ぼくを殺せば、勝ち残るのは自分だけだというのに。ここまで来て何を――とは、思わなかった。ぼくもいま全く同じことを口にしようとしたからだ。
「わかった。終わりにしよう」
首肯し、彼の提案を受け入れた。自分でも何故そう思ったのかはわからない。ただ、彼の目を見つめていると、今までに感じたことのない気持ちが内側から溢れてきた。
他の誰かとは思えない、他の誰でもない彼はぼくと同じ誰かなのかもしれない。自分でも何を言っているのかわからない。そんな言語化し難い不思議な感覚に支配されながら歩み寄る。
「さあ、行こうか」
「ああ」
ぼくらは手と手を繋ぎ、壁に向かって再び走り始める。
殺し合いの果てに掴んだのは、女神の愛よりも先に同志の手だったとは。予想だにしなかった展開だが、これから訪れる結果に変わりはない。
立ちはだかる壁により、ぼくか彼かのどちらかが死ぬ。もしくは、両方ともが死ぬ。それでも……この手を放さない。
三億の屍を背に、ぼくらは壁を越えていく。女神の愛を勝ち取るために。
あとはもう祈るしかない。どちらかがツイていますようにと――
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