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一歩、また一歩と足を踏み出すその度に、記憶が抜け落ちていく気がする。大事な目的のために走っている最中だから、拾うことは叶わない。失っていくのは、ぼくの前世の記憶だ。
かつて地球に生まれ落ちたぼくは、蛇だったか百足だったか蚰蜒だったか蛙だったか……。自分が何だったかすらもう曖昧だが、人間からすればあまりろくでもないような生き物だった気がする。
人に忌み嫌われ生きてきた。ただただ不快に思われて死んでいった。そんな嫌な思いだけが心の奥深くに残っている。それで、ぼくは人間になりたいと思ったんだっけ。そこからどうして、人間なんかになりたいと思ったんだっけ。
抜け落ちた記憶はもう取り戻せないほど、走って走って遠くまで来てしまった。ここまで来たら、引き返す気など毛頭ない。前に進むしかぼくに未知はない。
どうして人間になりたかったのかは、人間になってから考えても遅くはないか。
死んで魂だけとなった存在のぼくらの間で、来世になりたい生き物ランキングで堂々の一位に輝いているのが人間らしい。
七十億人の中の一人の人間になる試練を受けるために、毎回一億から四億ほどの魂が名乗りを上げるという。
選ばれるのはたったのひとつの魂で、全ての魂が失敗に終わる可能性も多分にある。
たった一人の人として選ばれるまでに、人知れず繰り返し繰り返し行われる原初のバトル・ロワイアル。
三億の参加者があった今回、来世で人間に生まれ変わる権利を得るのは果たして誰なのか……?
道はまだ途中。希望の光を掴み取るためには、前を向いて走るしか――
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