第3章 オーロラの下でやっちゃいました

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「あの人、自分に嘘ついてるから苦しいのよ。それを、旦那さんや目障りな私達のせいだって勘違いしてるみたい・・・」 「それって、とばっちりじゃんか。お前が同情なんかする相手じゃない」 「そうだけど・・・。せっかくオーロラを見に来たのになんか勿体ないなって思って」 「そうだよ!オーロラ、見なくちゃ!!」 夏鈴をその方向に立たせて、俺はシャッターを押した。 デジタルカメラをチェックすると、夏鈴の背景に緑色と青色が交じり合う光のカーテンがちゃんと映っていた。 さっきの初老の紳士にお願いして、俺達の写真を数枚撮ってもらい、俺もお返しに夫婦の記念写真を撮ってあげた。握手をして「素敵な夜ですね」と言葉を交わすと、旅行に来て本当に良かったとやっと思えた。 バスに乗り込むと、一番後ろのトラブルメーカーが腕組をして不貞腐れた顔をこちらに向けていた。 初老紳士の夫婦が空気を読んだみたいに、俺達の二列後ろに座って視界を遮ってくれた。ああいう大人を見習いたいものだなって思う。 「晴馬・・・、どうしよう?私の頭の中に、たぶんあの人の声が聴こえてきてる」 俺はギョッとして、夏鈴の両目を見た。冗談じゃなさそうだ。眉間に皺を寄せて、困った顔をしている。 「・・・ホント、お前のその力・・・、コントロール不能なんだな・・・」 「・・・うん・・・。今はもう、様子見るしかないけど・・・こんなところで車を降りるわけにはいかないし」 不憫な妻の肩を抱いて、おでこにキスする。 「あの人、素直になれなくて苦しいみたい」と、夏鈴は切なそうにつぶやいた。
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