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* * * * 夏鈴 * * * *
『なんでこんなところに来ちゃったんだろう・・・。
あんな子に比べられるなんて、どこまでバカにしたら気が済むの?
帰りたい・・・、帰ったらすぐに離婚届け取りに行こう。
もう、こんな思い遣りのない男なんて捨ててやる!』
暗い雪道を照らすバスのヘッドライトの向こう側を見詰めながら、彼女の本当の気持ちに耳を澄ませた。
劣等感が強い彼女の怒りの矛先が、旦那さんを通して自分自身に向けられている。
離婚なんて望んでいないのに、離婚する口実を探しているみたいに感じた。
目には見えない力が働いて、私達は出会い夫婦になる。
不思議なことに、性格や育った環境に共通点がなくても、夫婦はちゃんと向かい鏡になる伴侶をお互いに選ぶ。
相手の嫌なことに目が行く人ほど、自分に劣等感を抱いている。
この奥さんはそれに薄々気付き始めているようだ。
相容れないものがあるのはきっとお互い様なのに、彼女は自分の暗部を見ずに相手が去れば楽になれると信じている。でもそれは、一時しのぎに過ぎない。相手が変わるだけで、必ず同じ課題に直面することになっている。
要は素直になれさえすれば、どんな相手を前にしても不貞腐れたりできなくなるんだけど。
我が強い人は、自分の非を素直に認めないからこじらせやすいのかな。
新婚旅行から大きな課題に直面してるんだなって思ったら、応援したくなる。
私はオーロラが出ている方向に向かって、神様に祈った。
この幻想的な夜の中で、皆自分の目の前にある幸せに気付いて心から感謝できたとき、とても大きな愛に満たさるはずだから・・・。
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