口癖

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アイツはいつも皆の視線の先に居る。 愛され尊敬され、誰もが相手になりたいと望むような男。少し華奢だが、垂れた目尻と泣き黒子に甘いマスクだと女子が放っておかない。 スラリと伸びた色白の腕や足や首に、男子たちがすれ違うたびゴクリと喉を鳴らすのを知っている。 そして皆こう思う。 彼はアルファらしいアルファだって。 俺もそう思う。この世界にたったの20%しか居ない貴重で才あるアルファに違いないと。 「悠宇(ゆう)、何考えてるの?」 そして、そんなアイツが傍に置く唯一の人間である俺がオメガだと。 ーーー皆、疑う事なくそう思ってる。 「なにも。何も考えてない」 淡々と答える俺の頬に、アイツの綺麗な指が添う。繊細な指のイメージとは違い、強い力でぐっと上を向かされ見上げた先にあるのは、綺麗な飴玉のような美味しそうな瞳。 でもその瞳が写すのは何の特徴も持たない何処にでも居そうな男子高校生だ。 感じるのは、ただの男子高校生を見るには強く、少し歪な視線。 「ダメだよ。俺のこと、考えてなきゃ。悠宇は俺のことだけ考えてて」 怒気を孕んだような、はたまた拗ねたような、そんな口調で囁く唇がまるで噛み付くように重なった。
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