幼馴染

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そんな悔しいほどの男前を見上げて、ワザとらしく溜息をついてやった。 「慶次(けいじ)…またかよ。お前正直辞書持って来る気ないだろ」 「違うんだって!持って行くって寝る前までは覚えてんだけど朝起きたら忘れてんだよ」 「なら夜寝る前に準備しとけよ、バカ」 「バーカ」 絢斗が慶次を見上げてクスリと笑うと、慶次はウッと言葉を詰まらせた。 「くっそ~…絢斗にバカ呼ばわりされると言い返せねえだろ」 「ちょっと待て。それじゃ俺には言い返せるってことか?おい」 「い、いや…そういうことじゃなくてだな」 俺の指摘にシドロモドロになる慶次を見て思わず吹き出した。揶揄(からか)うのが面白いのは俺より慶次だろう。 「嘘だよ、はい。昼休み持ってくるの忘れんなよ。こっち午後から英語だから」 「おー!さすが悠宇!ありがとな。じゃあまた昼に来るわ」 「バイバーイ」 絢斗が立ち上がることなくヒラヒラと手を振る。 そんな絢斗の柔らかな髪を骨張った指がクシャリと撫でて慶次は颯爽と教室を出て行った。 慶次の姿が無くなったのを確認した絢斗はくるりとこちらに顔を戻し、俺を見上げてもう一度にこりと微笑んだ。 「慶次が辞書忘れて来るの絶対ワザと」 「…またそれか。んなわけないだろ」 「だって毎回じゃん。悠宇に会いたいからだよ」 「はいはい。妄想も大概にしろよ」 「悠宇」 「……なに」 「今日も一緒に寝ようねぇ」 「………」 だから俺は寝不足になるんだよ、と心の中で呟く。 嫉妬か何か知らないが俺からジッと目を離さない絢斗の乱れたままの髪に手を伸ばした。 慶次が触れていった場所だ。 滑らかな触り心地は軋むこと無くいつ触れても気持ちいい。 そんな髪の毛に触れていった慶次の顔を思い出す。俺に会いたいから辞書を忘れて来るだって?本当、妄想も大概にしてくれよ。 ーーー慶次が会いたいのはお前だよ。俺はただの言い訳。 言ってやりたい。言ってしまえば絢斗は一体どんな反応をするだろう。少なくとも二度と俺に会いたいから忘れてきてる、だなんて戯言は吐かなくなるんじゃないか。 もう何度考えたか分からないことを思いながら、髪をすく手に気持ちよさそうに目を細める絢斗を見下ろした。
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