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「……お願いがあって来ました」
「お断りです」
街の喧騒から離れること数十キロ、田畑に囲まれた一軒家の広い玄関で、おれは盛大にため息をついた。
「面倒なんですよ。誰から聞いて来たのかは知りませんが、自分の願い事くらいご自分で叶えてください。ホント面倒なんで」
「でも! もう限界なんです! ここへ来れば何とかしてくれると!」
「そういう根性が僕は嫌いなんですよ。他力本願で自分の夢を叶えるのは、」
「後がないの! もう自分ではどうしようもないのよ!」
目の前の女は重い玄関扉を掴み、壁から剥ぎ取らんばかりの勢いだ。シンプルなトップスと無地のスカート。全体的に地味な服装だが、足元の赤いヒールが、彼女の本来の性質を表している。おれはちらりと、彼女のボロボロの爪を見て、もう一度ため息をつき、彼女を嫌々室内へ招き入れた。
客間にしている六畳半の部屋で彼女の話を嫌々聞く。くそ長ったらしい話を要約すれば、社内でいじめにあっている、とのことだ。気の強そうな彼女をいじめるとは、その女たちも相当な性格だ。 彼氏を寝盗られたらしいが、それはおれに云わせれば、男が悪い気がする。
ともかく、どうにかしてほしいと云うので、おれは彼女に畑の草むしりをお願いした。三十分で出来るところまで。その出来次第で望みを叶えると。
女はさんざん文句を云い、結局帰ってしまった。おれはリビングのソファに横たわり、明日また女が来る事を思うと、面倒でユウウツになる。なので重い体を起こして、あるところへ電話をかけた。これで巧くいけば、明日女は来ないだろう。あくびをひとつして、ドラマの再放映を観ながら昼寝した。
先日の女が、お礼の菓子折りを持って再訪してきた。ああ、巧くいったんだな。綺麗に整えられた爪を見て、けれどおれはため息を吐いた。女が足音軽く帰ったところで、おれは包装紙を開けて中身を見た。超有名店の高級バァムクーヘン。しかも期間限定。わお。だからこの商売を辞められない。ウキウキとキッチンへ行き、お皿にまるごとのせて珈琲を用意する。リビングへ運び、いざ食べようとしたところでベルが鳴った。……。
重ーい腰を上げて玄関に行く。そこには、あの女をいじめていた女たちが立っていた。おれはため息をついてこう云ってやった。
「因果応報。何とかしたいのなら、」
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