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山間の工事現場に悲鳴が響き渡ったのは、春を迎えた5月のことだった。
ひとり…またひとりと、砂利の路面に倒れていく。
口元から血を流し、目を大きく見開いた男。
その上に老婆が頭から血を流して倒れる。
悲鳴はやむことなく山中に響き渡った。
叫ぶのをやめた男が下唇を噛みしめ、近くに落ちていたスコップを手に取った。そのスコップを大きく振り上げ、何かに向かって走り出す。砂利を踏みしめ、よろけながら走っていく。
しかし、スコップは目標を捕らえる前に砂利の上に落ち、男の首は宙を舞った。
地面に転がる首を見た中年の女性が、涙を流しながら叫び声を大きくした。
次の瞬間、その女性の喉元に木製の棒が突き刺さった。
それは、先ほど男が持っていたスコップの柄の部分だ。
女性は声を失い、地面に倒れて痙攣し、その後動きを止めた。
人の群れは一掃した。
誰一人として立っている者はいない。
それどころか、息をしている者がいない。
惨殺死体に囲まれて、唯一生きていた血まみれの男は、腕についた血を舐めた。
『おーい。応答しろ。工事始まったのかぁ?』
どこからか間の抜けた声が聞こえてくる。
辺りを見回してみる。
学校のグラウンドほどの広さのさら地に無数の遺体が横たわり、そこを囲むように木々の茂った山がある。
さら地の端に白いテントが見えた。
男は声のする方へ…テントの方へと歩を進める。
『聞こえてんのか?応答しろー』
相変わらずとぼけた声が、スピーカーから聞こえている。
どうやら無線機が設置されているようだ。
他にも図面や地図などが長テーブルの上に散乱している。
モニターや機材などもあちこちに点在していたが、モニターには横線が数本波打ち、画面全体は黒でまとまっていて、なんの機能も果たしていなかった。
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