1070人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
つい祖母だと言ってしまったが、そんなに単純な話しではなかった。
「私は祖母だと思ってるんですが…戸籍上は…。いろいろ複雑で」
それを聞いた本田も眉をひそめる。
「どういう意味です?」
「私、養女だったんです」
それまで不愉快な顔をしていた五十嵐が、その表情を崩した。初めて聞く話だった。
「産まれたときに母が死んで、父は私が産まれる前に行方不明になりました。両親は結婚を反対されて両家から縁を切られたために、引き取り手のなくなった私は施設に引き取られ、その後、養子に出されました。その養父が北海道大学精神科教授の神藤司です」
「神藤司……?」
緒方が驚いて目を丸くした。
口を大きく開けて、まるで鯉のようにパクパクと開けたり閉じたりを繰り返している。
本田も知っているのか、困惑の表情を浮かべて指先で顎を撫でた。
「神藤ウメは、神藤司の母親です」
彩香が祖母との関係を簡潔に伝えると、『なるほど』と言わんばかりに緒方は机の上のお茶に口をつけた。
「あ、ちょっと待って。じゃあ、なんで名字……」
急に頭が冴えたのか、緒方が彩香の顔を覗き込む。
「4年前に養子縁組を解除したんです。養母である神藤昌子が亡くなったので」
「なんで解除する必要が?」
「私の問題です。仲たがいしたわけじゃありません。父と相談して決めました。でも、今でも父とは連絡を取ってますし、祖母の家に泊まりに行く事もあります」
「じゃあ、神藤教授と連絡を取れるということですか?」
本田が前のめりになって彩香の顔を覗き込んだ。
「連絡は取れますが、問題が」
「問題?」
「父は今、アメリカにいます。論文の発表があるとかで、日本にはいないんです」
本田は両手を頭に当てて髪を掻き乱した。
期待を打ち砕かれた気分だった。
「普段はスカイプを使ってテレビ電話してますが、電話してみますか?」
彩香がそう聞けば、本田はすぐに顔を上げた。
「できますか?」
朗報を聞けば本田の目に輝きが戻る。
「時間が時間なので起きてるか微妙ですけど。パソコンを貸していただけますか?」
最初のコメントを投稿しよう!