その三人、刑事

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つい祖母だと言ってしまったが、そんなに単純な話しではなかった。 「私は祖母だと思ってるんですが…戸籍上は…。いろいろ複雑で」 それを聞いた本田も眉をひそめる。 「どういう意味です?」 「私、養女だったんです」 それまで不愉快な顔をしていた五十嵐が、その表情を崩した。初めて聞く話だった。 「産まれたときに母が死んで、父は私が産まれる前に行方不明になりました。両親は結婚を反対されて両家から縁を切られたために、引き取り手のなくなった私は施設に引き取られ、その後、養子に出されました。その養父が北海道大学精神科教授の神藤(しんどう)(つかさ)です」 「神藤司……?」 緒方が驚いて目を丸くした。 口を大きく開けて、まるで鯉のようにパクパクと開けたり閉じたりを繰り返している。 本田も知っているのか、困惑の表情を浮かべて指先で顎を撫でた。 「神藤ウメは、神藤司の母親です」 彩香が祖母との関係を簡潔に伝えると、『なるほど』と言わんばかりに緒方は机の上のお茶に口をつけた。 「あ、ちょっと待って。じゃあ、なんで名字……」 急に頭が冴えたのか、緒方が彩香の顔を覗き込む。 「4年前に養子縁組を解除したんです。養母である神藤(しんどう)昌子(まさこ)が亡くなったので」 「なんで解除する必要が?」 「私の問題です。仲たがいしたわけじゃありません。父と相談して決めました。でも、今でも父とは連絡を取ってますし、祖母の家に泊まりに行く事もあります」 「じゃあ、神藤教授と連絡を取れるということですか?」 本田が前のめりになって彩香の顔を覗き込んだ。 「連絡は取れますが、問題が」 「問題?」 「父は今、アメリカにいます。論文の発表があるとかで、日本にはいないんです」 本田は両手を頭に当てて髪を掻き乱した。 期待を打ち砕かれた気分だった。 「普段はスカイプを使ってテレビ電話してますが、電話してみますか?」 彩香がそう聞けば、本田はすぐに顔を上げた。 「できますか?」 朗報を聞けば本田の目に輝きが戻る。 「時間が時間なので起きてるか微妙ですけど。パソコンを貸していただけますか?」
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