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モニター画面を見ながら思う。
──実の子ではないが、本当にきれいに育ったものだ。
神藤は不鮮明な画面を見ながらそう思った。
そして、小さくため息を吐いて気持ちを落ち着けると、重い口を開いた。
「彩香。私が言おうとしていることは分かるね?」
「はい」
「私は早ければ明後日の便で帰る。おばあちゃんの確認を頼むよ。それから、捜査協力をしてあげなさい。話を聞いた限りでは、簡単には解決できる問題ではなさそうだ。頼むよ」
「はい」
彩香は断ることなく、全てを「はい」という返事で答えた。
──この子には敵わない……。
神藤は心の底から思った。
昔から彩香には負けてばかりだった。
何でも見通されてしまう。
妻の昌子とケンカした時も、彩香の前ではいつも通りを装っていたのに、すぐにバレてしまい、それどころか仲裁に入られてしまった。
「本田くん。この事件には彩香を協力させてくれ。私よりも適任だ」
「え?しかし、教授!」
本田は前のめりになってモニター上の神藤を見つめる。
しかし、神藤は神藤で目を伏せ、大きなため息を吐いた。
その後、「母の遺体の確認も彩香に頼む。私はどうしても帰れないんだよ」そう告げた。
「教授!」
画面上の本田が苛立って見えたのは気のせいではないだろう。しかし、神藤は引き下がろうとはしなかった。
「さっき言った通り、早ければ明後日に帰る。母と彩香の事をお願いしますよ」
神藤はそれだけ言うと、本田の言葉に耳を傾けることなく通話を遮断した。
何を言われたって気持ちは変わらない。
自分は間違っていない。
そう言い聞かせた。
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