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血まみれの男はそれらに興味を示すことなく、背を向けようとした。
しかし、一瞬何かが動いた気配がして、視線をテント内に戻した。
長テーブルの下にピンクの布が見えた。スカートのようだった。
男はテント内に侵入し、その姿を確認する。
腰をかがめてテーブルの下を覗いてみると、小さな女の子が人形を抱きしめて座っていた。
男の姿を見た少女は首を傾げる。
「ケガしたの?だいじょうぶ?」
少女が血だらけの身体に触れようとしたのを、男はすっと身を引いてかわした。
少女はそんな男を恐れる事もせず、スカートのポケットから飴玉を取り出し、男に向かって差し出す。
「はい」と、手を突き出され、一瞬男は狼狽したが、その無の表情に押されてしまった。
突き出された手から飴を受け取ってしまったのだ。
それから男は逃げるようにテントを後にした。
死体の山を通り過ぎ、山中へと駆けていく。
少女はテーブルの下から這い出すと、辺りを見回した。
テントの向こうにあるのが死体であることに、彼女は随分と長い間気付かなかった。
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