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生存者
図書室を出て保健室に向かう途中、五十嵐も合流した。
何が起こっていたのか知らない五十嵐は、本田に向かって、
「なんでコイツを会わせるんですか」と、抗議している。
しかし、本田はそんな五十嵐を無視して保健室のドアを開けた。
白いパイプベッドに女の子が座っている。
まだ小学校に入ったくらいの小柄な少女。
少女のそばに白衣を着た医師が一人、警官が一人立っている。
「少しはずしてくれ」
警官と医師に本田がそう告げると、二人は一礼して部屋を出て行った。
少女は困惑することなく4人の大人を見ていた。
彩香が近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、少女の正面に座ると、少女は床につかない足をぷらぷらさせながら、大事そうにクマのぬいぐるみの頭を撫でた。
「かわいいぬいぐるみだね」
彩香が声をかける。
「お母さんがかってくれた」
「お母さんはどこに行ったの?」
「お山でねてたよ」
少女が述べる、『ねてた』の意味を、彩香は脳内で変換した。『山で倒れている』。
「お母さんが眠ったとき、あなたはどこにいたの?」
「白いやねのへや。テーブルのしたでプーとあそんでたの」
「プーって、この子のこと?」
彩香はクマのぬいぐるみに視線を向けた。少女は大きく頷く。
「その時、誰かあなたに話しかけなかった?」
「ううん」と、少女は頭を横に振る。
「じゃあ、誰か近づいてこなかった?」
「きたよ」
その返事を聞いて、本田と五十嵐は目を大きくした。
これまで緒方が追求しても出てこなかった話だった。
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