信頼

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信頼

ノートパソコンがコール音を鳴らした。 ホテルの部屋で論文を再確認していた神藤(しんどう)(つかさ)は、ノートパソコンを引き寄せてキーボードを叩いた。コールの相手が彩香だと分かり、すぐに通話にした。 「彩香?どうしたんだ。今はアメリカにいると言ってあっただろう」 神藤は論文を机に置くと老眼鏡をはずし、代わりに机の上に置いてあった眼鏡をかけた。 「お父さん、ごめんなさい。緊急なの」 画面の動きに時差があって、その表情はうまく伝わってこないが、いつもと通話環境が違う事は分かった。 「どこにいるんだ?」 「おばあちゃんの家に行く途中だったんだけど……。今、刑事さんと変わるね」 再び声と画面に時差を感じながらも、画面上に現れた男に見覚えがあるような気がした。 「刑事さん?そう言ったな?」 神藤が画面に向かって声をかける。 「道警本部捜査第一課の本田(ほんだ)雅光(まさみつ)です。その節はお世話になりました」 本田……。 名前を何度も繰り返して脳と対話する。 ──誰だ?いつ会った? そして神藤は何かを思い出したように顔を上げた。 「以前、捜査協力をしたな」 なんの事件だったかさっぱり思い出せないが、顔だけはかろうじて思い出せた。なんだか癖のある男だ…と、思った記憶は残っている。 「ところで、なぜ君が娘と一緒にいるんだ?」 神藤は首を傾げた。 他にも数人の影が画面に映りこんでいる。と、言うことは…事件だろうか。 「実は先生のお母様である神藤(しんどう)ウメさんが事件に巻き込まれた可能性があります」 「事件?あんな田舎で?」 「先生はこの辺で道路開通の工事が行われる事はご存知で?」 「ああ、母から聞いていたよ。それが事件と関係あるのかな?」 「実は今朝が工事開始の日でして…その開始時刻と同時刻に現場の無線に誰も出なくなり、不審に思った工事の請負会社の人間が現場まで行ったところ、工事関係者、ならびに集落の住民が殺害されているのが発見されました」 あまりに突飛な話で、想像力だけでは補えなかった。 あの近辺の住人だけでも20人はいるのだ。その20人と工事関係者を全員殺したのだろうか? 神藤は動揺を隠そうと、画面には映らないよう指先で手のひらの腹をこすりながら呼吸を整えた。
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