第56回 彫師

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第56回 彫師

『彫師伊之助捕物覚え』(藤沢周平) ▽あらすじ 『彫師伊之助捕物覚え』のシリーズは、『消えた女』『漆黒の闇の中で』『ささやく河』の三作から成るハードボイルドタッチの捕物帳である。  主人公たる伊之助は、かつては凄腕をうたわれた岡っ引だった。もとをただせばただの版木を彫る職人だったのだが、見込まれて十手を預かったのである。探索の仕事が性に合っていたらしく、めきめき腕を上げて、「清住町の親分」と立てられる顔役にのしあがった。  岡っ引として脂〔あぶら)がのり始めた矢先、女房のおすみが男をつくって逃げたあげく、男と心中を図って死んだ。おすみは彼に愛想をつかしたわけではない。岡っ引という仕事を心底から恐れ、忌み嫌っていたからなのだった。  女房の心中を機に、伊之助は十手と手札(証明書)を返上して元の彫師に戻り、今は五間堀端にある彫藤〔ほりとう〕の通い職人となって日を送っている。  ある日、伊之助をひとりの老人が訪ねてくる。岡っ引の縄張りを伊之助に譲って引退した弥八だ。娘がかどわかされた、ついては行方を探してくれというのだ。(『消えた女』)     
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