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終章 補助魔法の勇者は火力が足りない
魔力に振り回されて生きてきたエラザンにとって、戦いの記憶が途中で途切れる事はいつものことだ。ただ、どうやら今回は何かが違ったらしい、自分の周りに散乱する雑多な魔道具を見たエラザンは思った。
体を起こそうともがいたエラザンの肩を、誰かがしっかりと支える。
「お目覚めですか、エラザン殿。おい、オーティアス!」
その声はオーティアスの父親、クロードのものだった。その呼びかけに応じて部屋の扉が勢いよく開く。
「良かった! エラザン君、聞こえる?」
手をついて何とか体勢を安定させたエラザンはオーティアスを見上げる。
「あの後どうなったんだ」
「ああ、あのドラゴンなら爆発四散したよ。いくらチートトカゲ様でも君の魔力は食いきれなかったらしい」
「ば……?」
エラザンは改めて自分の体を眺める。爆発に巻き込まれた割には五体満足であるし、痛みの残る場所もない。オーティアスはニヤニヤと笑いながら言った。
「エラザン君をお姫様抱っこしたキリー様が爆風の中から帰還した時は、申し訳ないけどちょっと笑ったよ。ね、アリア君」
部屋に入ってきたアリアも微笑んで言う。
「ふふ、そうですね。エラザンさん、キリー様には感謝しなくてはですよ」
「姫さんが、そうか」
姫君に抱きかかえられて現れる大の男。中々面白い光景であるが、エラザンはそれを恥だとは思わなかった。
黙りこんだ彼に、オーティアスは少し声を落として続ける。
「それはそれとしてね。その、封印されし右手の方にご注目頂いていいかな」
エラザンは布の縛り付けられた手を持ち上げてため息をつく。
「あー、やっぱりなんかあるのか、コレ」
「そりゃあ何もなかったらこんなカッコいいことしないからね。あ、一回ほどくけど、落とさないでよろしく」
「落とすって何を……」
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