2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
菜の花の川
耕作は夢を見ていた。
夢の中で、幼馴染の清が幼い姿のまま、こちらに手を振って笑っていた。
「耕ちゃん、耕ちゃん。」
笑顔で手を振る清に、耕作はゆっくりと近づいて行く。
「耕ちゃん、今日は俺はさよならを言いに来たんだ。」
「なんでだ?清。」
耕作の問いかけに、清は黙って微笑んでいる。
「清、お前はどこへ行くんな?」
そう言い、さらに清に近づこうとすると、清は悲しそうな顔で首を振った。
「耕ちゃんは、まだこっちへ来たらいかんよ。これを、俺だと思って、持っていて欲しいんだ。」
そう言って、清が自ら耕作に近づいてきてある物を手渡してきた。
それは、人の心臓であった。
耕作は、驚いて、そこではっと目を覚ました。
「夢か。」
耕作は、寝床から半身を起こすと、ふうっと深い溜息をついた。
耕作は、文机の引き出しをそっと開けると、そこには心臓ではなく、清が出兵する前に手渡してきたハーモニカが、窓からの日差しを浴びてキラリと光った。
最初のコメントを投稿しよう!