「よし、仕事だ。九郎、出かけるぞ」
イスから立ち上がり、イスの背に掛けてあるジャケットに袖を通す。
「どちらへ?」
九郎が尋ねる。
「博物館だ。古代エジプトのミイラに会いに行くぞ。まあ、会えたらの話だけどな」
「ミイラ……ですか?」
「道明、詳しい話を聞かせろ」
九郎の顔が曇り、狐白が興味深そうに身を乗り出す。
「博物館からミイラが逃げ出したそうだ。誰かのイタズラなのか、それともミイラが眠りから目覚めたのかは知らないが、とにかく大事件だ」
「それでここに連絡にしたのか?」
巳雷が呆れたように言う。盗難や窃盗なら警察の仕事だ。
「博物館で働いている知り合いがいるんだ。それに、これは表沙汰にできない事件だからな。だいたいミイラが逃げ出したなんて警察に言えるか? 警察には盗まれたと言ってるが、実際にミイラが動き出すのを見た職員がいるそうだ」
道明は事務所のドアへと向かい、九郎もそれに続く。
「待て、我も行こう」
狐白がソファから立ち上がった。
「お前も行くのか?」
巳雷は狐白を見上げた。
「あんまり金にはならないぞ」
道明の冷やかし。
「世の中には金で買えぬものもある。甦ったミイラなどその最たるものではないか?」
道明は狐白の言葉に微笑む。
「巳雷、どうする? 一人で留守番するか?」
道明は巳雷に確認する。三人も四人も大きな違いはない。
「俺も行く」
巳雷が立ち上がった。
「ちなみに子どもは入館無料だから安心しろ」
再び道明の冷やかし。
「誰が子どもだ。誰が」
巳雷が冷めた声で返答する。
「冗談だよ。よし、それじゃ、決まりだな」
道明は玄関のドアに出張の札を掛けて事務所をあとにした。
この世には人ならざる存在が人知れず跋扈している。ある存在は人に災いをなし、人の営みを脅かす。またある存在は人に寄り添い、人の営みを助ける。人間が存在し続けるかぎり、霊や妖怪のような怪異もまた存在し続ける。道明の仕事に終わりはない。
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