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第2章 死に蝕まれた街
翌日、午前9時に菊太郎が勝好を迎えに来た。
心なしか顔つきが険しいのは、勝好が忍び込んだ事を責めているからか。
彼が持ってきた着替えを身に着けると、獣から人間に返ったような気がした。
スーツ姿の中佐は、静かに口を開く。
「昨晩は失礼をしました。私がその場にいれば、もう少し穏当に済ませる事も出来たかも知れなかったのですが…」
「あー、まぁ…しょうがないンじゃないすか?」
「所長も不思議がっていました。貴方がどうやって四号を持ちだしたのか」
勝好は首を傾げた。
「どうやっても何も、鍵なんて掛かってなかったスけど」
菊太郎は昨晩、調査させた結果を伝える。
地下室の鍵はしっかりと施錠されており、またこじ開けられた形跡も無かった。部屋の鍵は所長の相馬が保管している。
換気口はあるが小さいもので、子どもすら通る事は出来ない。台座の側には大きな和服が脱ぎ捨てられ、長身の人物が侵入したのは間違いない。
「四号?シナツヒコって奴が、俺を呼んでたとか、言ってました」
「……四号に呼ばれた、ですか」
「ところで、今どこに向かってるんですか?」
勝好が尋ねる。
「所長、相馬の部屋です。高橋さん、今でも我々に力を貸そうとは思いませんか?」
「あー…」
言い淀んでいると、また頭痛が走る。頭の中に女の声が響き、ここで戦うように言った。
戦いから離れた場合、勝好は間違いなく鎧を使わなくなる。四号の適合者となった以上、陸軍も放っては置かない。
我を着て戦え、とシナツヒコは言った。菊太郎に承諾の意を伝えると、痛みは治まった。
「…ありがとうございます」
「おぉ。……いい加減にしろよ、バケモンが」
2人は検査室に入った。
床の上を、夥しい数の机に乗せられた用途不明の装置が占領している。
人が通れるようにスペースは作られているが、身体を反らさなければすれ違えないほど狭い。
二十数名いる研究員達の中に、一際高齢の男がいた。ゆっくりと足を運び、若い白衣姿に話しかける彼は、入室してきた2人を視界の端で見ると顔を上げた。
「おぉ~!伊丹中佐、待ってたよ!」
「所長」
老人――相馬泰隆は喜びを顔の上に表す。
周囲に装置が無ければ、双手をあげて2人を迎え入れそうな有様だ。
研究員の邪魔にならないよう、3人は廊下に出た。階段近くのスペースまで来たところで、泰隆は口を開いた。
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