第1章 旅は道連れ

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人間の知恵の発展によって生まれた魔法と科学が織りなす世界“レジラント”。 その世界の地上にある小さな国“スラバーン”は、少し変わった国だった。 そこは周りの強豪な隣国でさえも恐れる盗賊などの犯罪者が集まるはみ出し者の国だった。 国といえど、誰かが統治しているわけではない。そこに住む者各々が好き勝手に暮らしていた。 犯罪は日常茶飯事。窃盗、暴行、殺人…ここではそれらが当たり前であり、そうでもしなければ、自分が生きることも出来ない。まさしく弱肉強食の世界だった。 そんな世界で名を馳せる1人の青年がいた。年はまだ18と若かったが、彼に盗まないものは無いと言われるほど、彼はスリの名人だった。 「~♪」 彼は鼻歌交じりに街を歩く。目の前から野菜を背中に背負って歩いてくる1人の男に目が止まった。 腰には金が入っていると思われる小さな巾着袋がぶら下がっており、無用心にもほどがあると彼は思った。 何も無いかのように自然と2人がすれ違った瞬間、彼は目にも止まらない速度で、音もなく男の腰にあった巾着袋をくすねると、そのまま通り過ぎる。 「俺の金がねぇ!!」 後ろでそんな声が聞こえていたが、彼は裏路地に早々に入って、男の声が聞こえないところまで巻くと、早速重ねた巾着袋を開いて、金額を確認する。 「536ラナか…。今月まだ3,000ラナも行ってねぇぞ…流石に厳しいなぁ」 ラナというのはこの地上での共通通貨で、どの国に行ってもラナで使うことができる。誰が制定したかは誰にもわからないが、当たり前になりすぎて誰も疑問に思うことはない。 はぁ…と彼がため息を1つつくと、後ろでバキッ!という物凄い音が響いた。 後ろを振り返ると、土煙の中から鈴が鳴るような可憐な声…ではなく、まるでオヤジのような咳が聞こえ、土煙が無くなると、そこからいつの時代の服だとツッコミたくなるような服を着た金髪の沢山の装飾品を身につけた女性が現れた。
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