8人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はネックレスもピアスも指輪でさえもどんどん彼に投げて行く。
「お母様が地上に行くなら着飾りなさいって言って押し付けてきたものなの。それに、そう言うのは家にいくらでもあるから。全部あげる」
今、彼の手の中では衝撃的な事件が起きている。まさか、こんなに簡単に手に入るなんて思っても見なかった。
いらない?どういうことだ?俺は何かに騙されてるんじゃないか?もしかしたら、今見てる光景全てが幻で、眼が覚めると手にはただの石しか乗ったなかったりとかあるんじゃないか?
理解できない。こんなに綺麗な装飾品なら、女は誰もが悲鳴をあげる。男だってそうだ。それを簡単に渡すなんて…どうかしてるにも程がある。
「お金に困ってるからって、人から物を盗むのは悪いことよ?そんな事してたら、いつか天罰が下るわ。もうやめなさいよね」
そんなお説教は彼の耳には届いていなかった。今この現状を把握するのに精一杯で、頭が完全にフリーズしていたのだ。
「本当にもらっていいのか?」
精一杯頭を使って、いま彼が彼女に対して言える言葉はこれだけだった。それに対して彼女はシレッと簡単に言い放った。
「良いって言ってるでしょ?私には必要ないもの」
本当にもらって良いのだ。何か感覚がずれてるのかバカなのか知らないが、兎に角これでこの街から…いや!この国からさへもおさらば出来るかもしれない!
「ちょっと!バカって何よ!私これでも神様よ!?」
そう言えば、心が読めるんだった。なんか自分が神様だとか意味の分からない事を言っているが、気にしないでおこう。
「はぁ…まぁいいわ。…えっと、君名前は?」
「ロイド。ロイド・ハーヴァスト」
「ロイドね。私はアストライアー。アストって呼んで」
変な名前…それに、随分男らしいあだ名だ。まぁ、サバサバしてると言うか、きっぱりしている彼女の性格には合ってる。
「じゃあねロイド。もう盗みはしちゃダメよ?」
そう言って彼女…アストは簡単に去っていこうとする。
何を血迷ったか、気がついたらロイドは大急ぎでアストに向かって叫んでいた。
「あ、あのさ!お礼といったらあれだけど…俺の家に来ないか!?」
アストは振り返ってロイドの目を見つめた。2人の間に妙な空気が漂ったのに気がついた時は、もう遅かった。
最初のコメントを投稿しよう!